忍者ブログ

Shigeon's Blog

二時間も競り合いが続く

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

二時間も競り合いが続く

 二時間も競り合いが続くと急に戦いの音が静かになった。鐙将軍の軍旗を持った使者が徐晃将軍の陣へ入って行く。降伏勧告の使者か、だが拒否するだろう。勇敢な男だった、徐晃、敵ながら尊敬に値する戦士だ。

 

 少しすると使者が出てきて鐙将軍の本陣へ戻る。太鼓が叩かれると再度攻撃が開始された、今度は一時も手を抜かず苛烈に攻め続ける。いつか蜀軍の輪が狭まって行き、ついには魏の軍旗が倒れ勝鬨が上がる。

 

 腰に履いている剣を抜いて空へ向けて掲げて後に胸の前に持って来る。

 

「徐将軍の勇戦に黙とう!」

 

 目を閉じて僅かながらの時間、英文故事書 徐晃に対して胸の内で語り掛ける。戦士として名誉な終わりだったと。

 

「洛陽へ戻るぞ」

 

「本陣は洛陽へ帰還する! 軽騎兵は偵察へ散れ!」

 

 目的を達した。行軍は李項に全て任せてしまい、馬上で腕組をすると遠くを見た。敵だと言うのに失うのは何故だろうか虚しいものだな。好敵手が味方の後方支援よりも近しく思えるという気持ち、何と無くわかる気がする。

 

 洛陽に帰着すると住民の歓迎で迎えられた。もし敗走する部隊が入城しようものならば、また街が危険にさらされる可能性が高いから。

 中領将軍が大声で優先命令を下すと、本陣全体が鉄騎兵を活かすための一つの動きをしてうねりだす。二列目には重装歩兵、三列目には弩兵が控えて最強の布陣を見せつけた。脇を固めるために軽騎兵が両翼につくと李項がこちらに視線を送って来る。

 

「進め」

 

「前衛進軍! 全軍声を出せ!」

 

 山の中腹から平地に響く声に土煙を立ち上げている鉄騎兵、朝日に輝く重装兵が殺意を持って魏兵に迫る。どこからともなく野外に屯していた魏兵が後退を始める、最初のうちはそれでも秩序を保っているように見えたが、鉄騎兵が迫るにつれて背を向けて逃げ出していった。

 

 魏が支配している郷城は門を閉ざしていて、撤退して来る部隊を受け入れようとはしない。弱気が伝染するので敗走する部隊を受け入れないのは戦術の常識だ、だが味方が拒否したならその部隊は更に遠くへ逃げるしかない。

 

 いつしか多くの魏兵が戦わずに逃げ出す事態に陥ってしまう。夏候軍は北部の包囲を切り開いて逃げていくが、徐晃の本隊は殿を引き受けて出来るだけの兵を逃がそうと奮戦している。

 

「戦場での手柄まで奪うなよ、戦闘には参加せんで構わん、そこらで足を止めて置け」

 

「はい、ご領主様!」

 

 適当な平地で進軍をストップさせると睨みを効かせるだけで手を出さない。戦わずに勝てるようになれば一人前だな、今回の功績は鐙将軍のものだ。敗残兵を無視して居残る徐晃の本陣に部隊が集まる。

 ぱっと目が覚めると外が明るくなっている。鉄のボウルのようなものに入っている水で顔を洗うと、洗いさしの木綿布で水けをふいた。外に出ると目を細めた、朝日が眩しいわけではない。

 

「ほう、そうきたか」

 

 左手の魏の陣営は変わらずだが、さらにその北側に居る夏候軍を含めた全てを包囲して、多数の蜀軍旗が靡いているではないか。半ば偽兵ではあるが、この衝撃は大きいだろう。何せこちらには俺がいる、どこかで大兵力を動員してきた可能性は充分あるからな。

 

 徐晃としてはここで黙って押しつぶされるわけには行かない、包囲を破り一先ず距離を置こうとするだろう。或いは鐙将軍の本陣を陥落させる。だがその手は俺が出てきたことで不能になってしまったわけだな。

 

 金属を打ち合わせる音がこの中腹にまで聞こえてきた。威嚇の為に蜀兵が盾と矛をぶつけて大声をあげている。目に見えて分かるほどの動揺が魏軍に行き渡る。

 

「敵地で大軍に囲まれ威圧されているんだ、平静でいられるのは一部だろうな」

 

 上手い事俺という存在を利用してのけたか、一杯食わされたな、あの夜襲がこの下準備だったとは。

 

「手柄の横取りは好きではないが、役どころを与えられているようだ、本陣も移動するぞ。李項、重装騎兵を横に並べろ」

 

「御意! 鉄騎兵で横陣を形成しろ!」

PR

コメント

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

カテゴリー

P R