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栄太郎の隣にいる桂も同じような表情をしている。いや、ほんのり顔を朱に染めているところを見ると、紫音とは少し違う意味で驚いているようだ。辻斬りの件から三日。暦は6月を迎えていた。相変わらずの暑さに、動く気力も削がれてしまう。栄太郎は毎日白粉と酒の匂いをまとって帰ってきて、いい加減に紫音は怪しいと睨んでいた。そんな折、変装した桂が来た事で疑念が核心に変わる。今日はこっそりついていこうと、決意してた紫音。そんな紫音に、起きぬけに栄太郎は言ったのだ。「…頭大丈夫ですか?」基金開戶返せたのはこの台詞。桂はあえてなのか、口を閉じて二人を見ている。「見ての通り至極まともだけど?桂さん、言ってやってよ」話を振られた桂にとってはいい迷惑である。何も自分がいる時にこんな話しなくたっていいのに。と、桂が思うのは当然であろう。「と、稔麿、私に何を求めてるか知らないが、誰だっていきなりそんな事言われたら神経を疑うよ?私は席を外した方がいいかい?」しかし口から出る言葉は優しく諭すようなものだった。「何故桂さんが席を外す必要があるのさ?あぁ、もういいや、楓の鈍感」拗ねたように栄太郎は口を尖らした言われた紫音は眉を寄せて首を傾げる。何故けなされなければならないのか。栄太郎以外誰にもわからない。なんだか気まずい空気が流れて、桂は居心地の悪さにため息をついた。「ん?何処か行くのかい?」「えぇ、私がいたら話も進まなそうですし…これ以上面倒な事を言われる前に席を外します」ニッコリと微笑んだ紫音からは黒いものが見えた。栄太郎は何も言わずに紫音を見送る。だが、窓から紫音が人込みに消えるまで姿を追っていた。「…見たくないもの、見なきゃいいけど」ボソリと呟いた栄太郎の言葉の意味を、やはり桂は理解出来ずに首を傾げたのだった…。**********「あ、永倉さん」「よぉ、紫音!!」「見回りですか?」「おー。この暑さでだいぶ隊士どもがやられててなぁ…巡察の回数増えちまって、俺も倒れたいくらいだ」わざとらしくげんなりしてみせてから、永倉は白い歯を見せる。ちらりと控える隊士たちを見ると、倒れないまでも具合の悪そうな男が何人かいた。「皆さんは大丈夫なんですか?」さりげなく尋ねると、永倉は頭をボリボリとかいて、何故か言い淀む。首を傾げる紫音に、永倉は困った表情を見せて言った。「あー、山南さんがちょっと具合悪いみたいだけどな」山南さんが…。先日会った時も、どこか顔色が悪かった。紫音が考えるように顔を伏せると、突然永倉が焦ったように動いた。「浪士ですか?」戦闘態勢を取れるよう目を鋭くして顔を上げると、永倉は大きく手を広げる。「?何ですか?」「いや、あっち行こうかなって」「あぁ、巡察の途中でしたね。すいません、邪魔して」紫音がそう言うと、永倉は安堵の息をついた。怪訝に思う紫音だったが、面倒はごめんなので気にするのはやめた。が、次にそうも言えなくなってしまった。それを見た瞬間。紫音は動けなくなった。体中の血が、一気に流れ出したようにドクン…ッと大きく波打つ。動けないのに、目だけはそれを追ってしまう。いや、追わなくてもそれは紫音の方に近づいてきた。「よぉっ紫音、新八♪」「こっこんにちは」「……………」「あぁ、こんにちは。……………おまさちゃん」